どうしておもちゃを投げるの?~0・1・2歳児の「ポイ!」に隠れている理由~

おもちゃで遊ぶ0・1・2歳児の様子
「ポイ!」

積み木を持って、ポイ!
車のおもちゃも、ポイ!
拾って渡したら、またポイ!

保育園でも、よく見かける光景です。

「おもちゃは投げないよ」と伝えた直後なのに、また投げる。 大人の顔を見ながら投げることもあります。

「どうして何度言っても投げるの?」
「わざとやっているのかな?」

そんなふうに思うこともありますよね。

でも保育園では、おもちゃを投げる姿を見た時、 すぐに「言うことを聞かない」「困った行動」とは考えません。

保育者がまず考えること

この子は今、
どうして投げたのだろう?

同じ「投げる」という行動でも、その理由は一つではないからです。

「ポイ!」は、小さな実験かもしれません

特に乳児期から1歳頃。

子供は、

  • 持つ
  • 離す
  • 落とす
  • 転がす
  • 投げる

ということを何度も繰り返します。

子供の目の前では、こんなことが起きています
  • ガラガラを落としたら、音がした
  • ボールを投げたら、転がった
  • 積み木を落としたら、大きな音がした
  • もう一度やったら、同じことが起きた

小さな子供は、実際に触ったり動かしたりしながら、 物の性質や「自分がこうしたら、こうなった」という 原因と結果を学んでいきます。

乳幼児の発達について研究・情報発信を行う ZERO TO THREEでは、 1~2歳頃の子供を「小さな科学者」にたとえています。

ボールを投げたら弾んだ。
では、人形を投げたらどうなる?

そんなふうに、自分で試すことで物の性質を確かめていくのです。

大人には「また投げてる!」でも、
子供にとっては
「これをこうしたら、どうなる?」
という実験になっていることがあります。

投げること自体が面白い時期もあります

歩いたり走ったりできるようになる頃には、 腕や手の使い方もどんどん上手になっていきます。

1

物を
持つ

→
2

腕を
振る

→
3

手を離して
飛ばす

「投げる」という動作は、身体のいくつもの動きを協調させて行います。

そのため、 「投げられるようになったことそのものが面白い」 という場合もあります。

だからといって、硬いおもちゃや危険な物を
投げてもよいということではありません。

「投げたい」という気持ちと、 「何を投げてもよいか」は分けて考えていきます。

「分かっているのに投げる」のは、なぜ?

もう少し大きくなってくると、 「おもちゃは投げないよ」と伝えた時に、 こちらの顔をじっと見ることがあります。

分かっているように見える。

ところが数秒後、

「ポイ!」

すると大人は、

「分かっているのに、どうして?」

と思います。

でも、ここには大切な発達のポイントがあります。

「分かること」と
「自分を止めること」は、
同じ力ではありません。

「これは投げちゃいけない」と分かっていても、 「投げたい!」と思ったその瞬間に自分の手を止めることは、 小さな子供にとってまだ難しいことがあります。

ハーバード大学の Center on the Developing Childでは、 衝動を抑えたり、注意を切り替えたり、 決まりを覚えて行動したりする力を 「実行機能・自己調整」と説明しています。

この力は、生まれた時から完成しているものではありません。 周囲の大人との関わりや毎日の経験の中で、 少しずつ育っていきます。

見方を少し変えると

「分かっているのに投げる」ではなく、
「分かっていることを行動につなげる練習中」

「投げる」が、言葉の代わりになっていることも

1~2歳頃になると、また少し違った「投げる」も見られます。

たとえば、こんな時
  • 使っていたおもちゃをお友達に取られた
  • 積み木がうまく積めなかった
  • まだ遊びたいのに片付けの時間になった
  • 自分の思いどおりにならなかった

すると、

「ポイ!」

こんな時は、物の動きを試しているというより、 気持ちが行動になって表れている ことがあります。

1~2歳頃は、 「これが欲しい」「まだ使いたい」「嫌だ」「自分でやりたい」 という自分の思いが豊かになってくる時期です。

一方で、その気持ちを相手に言葉で伝えたり、 自分の中で整理したりする力はまだ発達の途中です。

日本の研究から見える、1~2歳児の「自己主張」

ここで興味深い日本の研究があります。

乳幼児期の自己主張について研究している 野澤祥子先生は、 保育所の1歳児クラスを継続して観察し、 子供同士の自己主張がどのように変化していくのかを研究しています。

研究からは、1~2歳頃の間に、 強い気持ちがそのまま行動に表れる姿から、 少しずつ感情や行動を調整しながら話したり、 相手と言葉でやり取りしたりする姿へと変化していく様子が報告されています。

1

強い気持ちが
行動に出る

→
2

大人に言葉を
添えてもらう

→
3

少しずつ言葉で
伝えていく

今、気持ちが行動として出ている子供も、
ずっとそのままではありません。

「嫌」「貸して」「まだ使う」「あとで」。

行動だけではなく、別の方法で伝えられるようになる。 その途中にいるのです。

だから保育園では「投げない!」だけでは終わりません

もちろん、人に向かっておもちゃを投げたり、 硬い物を投げたりする場合は、まず止めます。

安全が最優先です。

1

まず安全を守る

危険な時はその場で止め、 「おもちゃは投げません」と短く伝えます。

2

その前に何があったかを見る

おもちゃを取られた? うまくできなかった? 眠い? 疲れた? 投げること自体を楽しんでいた? その直前の様子を見ます。

3

気持ちを言葉にする

「取られて嫌だったね」 「まだ使いたかったね」 と、大人が気持ちを言葉にします。

4

代わりの方法を伝える

「まだ使うって言おうね」 「貸してって言ってみよう」 と、次にできる行動を伝えます。

かえでの樹で大切にしたいこと

気持ちは受け止める。
危険な行動は止める。

「嫌だったんだね」と気持ちを受け止めることと、 「だから投げてもいいよ」と行動を認めることは別です。

「投げたい」なら、投げてもいい物へ

純粋に投げることそのものを楽しんでいる子供もいます。

そんな時には「投げない!」だけではなく、 何ならできるのかを伝えます。

🚗
車なら

「車は投げないよ。走らせよう」

🧱
積み木なら

「積み木はここに置こうね」

⚽
投げたいなら

「ボールを投げよう」

💬
嫌だったなら

「『嫌』って言っていいよ」

ZERO TO THREEでも、 投げてはいけない物については短くルールを伝えたうえで、 柔らかいボールなど安全に投げられる物へ切り替える関わりが紹介されています。

禁止するだけではなく、
「じゃあ、どうしたらいい?」まで伝える。

保育者が見ているのは「投げた瞬間」だけではありません

おもちゃが飛んだ。

もちろん、その瞬間は止めます。

でも保育者が本当に見たいのは、 その少し前です。

こんなところを見ています
  • 何をして遊んでいたのか
  • お友達とのやり取りはあったか
  • うまくできず困っていなかったか
  • 片付けを促された直後ではなかったか
  • 繰り返し落とすこと自体を楽しんでいなかったか
  • 眠さや疲れがなかったか

「何をしたか」だけではなく、
「その前に何があったか」を見る。

すると「困った行動」だったものが、 その子を理解するための手がかりに変わることがあります。

ご家庭でも、毎回完璧に対応しなくて大丈夫

家で何度もおもちゃを投げられたら、 いつも穏やかに対応できるわけではありません。

夕食を作っている時。
朝、急いでいる時。
せっかく片付けた直後。

「ガシャーン!」

……ありますよね。

だから毎回、長く説明する必要はありません。

  • 危険なら、まず止める
  • 「これは投げないよ」と短く伝える
  • 「嫌だったね」と気持ちを言葉にする
  • 「ボールならいいよ」と代わりの方法を伝える

一度伝えたら、もうできるはず。

ではなく、 同じことを何度も経験しながら、少しずつ身につけていくもの と考えてみてください。

明日から一つだけやるなら
次におもちゃを投げた時は…
まず 危険なら、静かに止める。
↓
「どうして投げたのかな?」と、その直前を見る。
↓
代わりにどうすればよいかを一つ伝える。

「おもちゃは投げないよ。ボールを投げよう」

「嫌だったね。『嫌』って言おうね」

それだけでも十分です。

「また投げた!」の少し先を見てみる

積み木を、ポイ。
車も、ポイ。
また、ポイ。

大人にとって、決して楽な行動ではありません。 そして危険なことは、しっかり止める必要があります。

でも、その「ポイ!」の少し先には、

  • 「どうなるんだろう?」という好奇心
  • 「投げられるようになった」という身体の発達
  • 「嫌だった!」という強い気持ち
  • まだ言葉にできない「これを使いたかった」という思い

が隠れているかもしれません。

今はおもちゃを投げて気持ちを表している子供が、 大人に何度も言葉を添えてもらい、 少しずつ「嫌」「貸して」「まだ使いたい」と伝えられるようになる。

「投げたい」と思った時に、 少しずつ自分の手を止められるようになる。

これもまた、乳幼児期の大切な成長です。

かえでの樹保育園では、 「投げた」という行動だけで、その子を見ないこと を大切にしています。

危険な行動はきちんと止める。

そのうえで、
「この子は今、何を伝えようとしているのかな?」
と考えてみる。

子供がまだ行動でしか表せないものを、 大人が少しずつ言葉につなぎ、 いつか自分で伝えたり、自分の行動を調整したりできるようになるまで、 その育ちを一緒に支えていきたいと思います。

参考にした主な研究・資料

本記事は、日々の保育実践に加え、 以下の発達・保育研究等を参考に構成しています。

  • 野澤祥子(2011) 『発達心理学研究』22巻1号。 1~2歳児の自己主張の発達的変化に関する研究。
  • 野澤祥子(2013) 『発達心理学研究』24巻2号。 保育所1歳児クラスにおける主張的なやり取りの発達過程に関する研究。
  • Harvard University Center on the Developing Child 「Executive Function & Self-Regulation」に関する資料。
  • ZERO TO THREE 1~2歳頃の探索・思考の発達、自己コントロールと大人の関わりに関する資料。
  • NAEYC(全米乳幼児教育協会) 乳幼児の探索行動と原因・結果の学習に関する資料。

※発達には個人差があります。本記事で紹介した年齢や行動は、 すべての子供に同じように当てはまるものではありません。 一人ひとりの発達や、その時の状況を見ながら関わることを大切にしています。