お子様の「見て!」は、心をつなぐ魔法の言葉 ―― 共感からはじまる親子の対話

ある日夕方のお迎えの時間のことです。
お子さんが、保育園にある大好きなおもちゃを手にしてお迎えに来たパパのもとへかけ寄ってきました。

「パパ、見て~!」と満面の笑顔。
ところが――
「それは保育園のだから、返してきなさい」とパパが静かに言うと、
お子さんの表情はみるみる曇り、ぽろりと涙がこぼれました。

このようなやりとり、実は保育園ではよく見かける場面のひとつです。
お子さんにとっては、「持って帰りたい」のではなく、「見てほしい」「伝えたい」という思いが込められているのです。


■ 子供の「見て!」に込められた心理とは?

発達心理学の分野では、子供は1歳半〜2歳ごろから「共同注意(joint attention)」と呼ばれる行動を強く示すようになります。これは、自分が見ているものを他者にも見てもらい、共通の関心を持とうとする高度な社会的行動です。

たとえば心理学者マイケル・トマセロ(Tomasello, 2000)は、子供は早い段階で「他者と意図や関心を共有したい」という強い欲求を持つことを明らかにしました。この「見て!」という行動こそ、まさにその表れなのです。

同様に、心理学者トレヴァーゼン(Trevarthen, 1998)も、生後9か月頃から始まる「二項関係から三項関係への発展」(自分・他者・モノ)を示し、これが他者との相互作用の基盤になると述べています。

つまり、お迎えの時間に子供が「見て~!」とおもちゃを持ってくるのは、“今日一番楽しかったことを共有したい”という強い社会的な表現なのです。


■ 「返してきなさい」だけではもったいない

もちろん、保育園のおもちゃは園に置いておくもの。ルールを教えることも大切です。
でも、その前に――
「へぇ、これで遊んだんだね!」「教えてくれてありがとう」といった共感の言葉をひとつ添えるだけで、子供の心はぐっと満たされるのです。

心理学者ジョン・ボウルビィ(Bowlby, 1988)の愛着理論では、「子供が安心できる存在(安全基地)を得ることで、自発性や好奇心が育つ」と述べられています。
その“安全基地”の中には、「気持ちを受け止めてもらえる経験」も含まれるのです。

このように、まず気持ちを受け止めてからルールを伝えることで、単なる指導ではなく、子供の社会性と自己肯定感の育ちにつながります。


■ 声かけのコツ

・「へぇ~!これで遊んだんだね。楽しかった?」
・「見せてくれてありがとう。嬉しいな」
・「おもちゃさんも、お部屋に帰りたいみたいだよ」

このような共感から始める関わりは、非認知能力(思いやり、協調性、自己制御力など)の育成にも役立つと言われています。

非認知能力は、学力やスキルよりも長期的な幸福や経済的成功に影響すると注目されており、幼児期の親子のやりとりがその土台となります。


■ 最後に

お迎えの時間は、子供が一日の思い出を“大好きな人に報告する時間”でもあります。
小さな「見て!」に込められた、大きな成長の兆し。
どうかそのサインを、やさしく受け取ってあげてくださいね。
その一言が、子供の心をあたたかく育てる土壌になるのです。


おまけ※【三項関係とは?】

子供の発達において、「三項関係」という考え方があります。これは、
「自分(子供)・他者(大人など)・モノ(対象物)」の三者の関係性を、子供が理解し、やりとりに取り入れることを指します。
この考え方は、ジャン・ピアジェやコルウィン・トレヴァーゼンといった心理学者によって研究されています。

  • ピアジェは、子供の思考の枠組み(認知構造)が発達することを重視し、やがて子供が他者の視点を理解し、対象と自分を区別できるようになる過程を論じました。
  • 一方、トレヴァーゼンは、乳児が早くから大人と感情を共有しようとする情動的・対人的な関わりに注目し、こうした関係が社会的発達の基盤になると述べました。

このように、

  • ピアジェ:認知的な発達
  • トレヴァーゼン:情動的な発達

と焦点は異なるものの、「子供が自分と他者、そして対象(モノ)をつなげて理解しようとする姿勢」は、どちらの理論にも共通しています。

つまり、
「パパ、見て〜!」という子供の行動は、この三項関係が育ちつつあることを示す、大切な発達のサインなのです。


【参考・出典】

  • Tomasello, M. (2000). The Cultural Origins of Human Cognition. Harvard University Press
  • Trevarthen, C. (1998). The foundations of intersubjectivity. In Intersubjective Communication and Emotion in Early Ontogeny
  • Bowlby, J. (1988). A Secure Base. Basic Books
  • 宮里暁美ほか『保育の心理学』ミネルヴァ書房
  • 無藤隆(2015)「非認知能力と幼児教育の役割」ベネッセ教育総合研究所報告書
  • 井桁容子(2011)『0・1・2歳児のこころに寄り添う保育』ひとなる書房
  • 石田満(2013)『子どもの「自己肯定感」って何?』かもがわ出版