子どもとの絆を深める「拡張話法」—保育現場で実践する心に響く対話術

保育あれこれ

日々の保育の現場では、子どもたちが自分の気持ちを自由に表現できる環境作りが最も大切です。保育士として、子どもたち一人ひとりの心に寄り添い、彼らが安心して自分の思いを語れるようなコミュニケーションの工夫が求められています。今回は、子どもとの対話をより豊かにする「拡張話法」をご紹介します。

「拡張話法」は、永松茂久氏の著書『人は話し方が9割』で紹介されたコミュニケーション技法で、感嘆反復共感称賛質問の5つのステップから成り立っています。この手法は主にビジネスや日常の対人関係での活用が提案されていますが、保育現場や子育ての場面でも応用可能です。子どもとの対話に取り入れることで、彼らの自己表現を促し、信頼関係を深める効果が期待できます。

感嘆
 まずは、子どもの話に対して、興味や驚きを示す言葉をかけます。例えば、「本当にいいね!」や「その考え、すごく面白いね!」といった表現を用い、子どもに「自分の話がしっかり受け止められている」と感じてもらいます。
反復
 次に、子どもの発言を自分の言葉で簡潔に繰り返し、確認します。「今日のお絵描き、とっても楽しかったんだね」と伝えることで、子どもは安心し、自分の体験が伝わっていると実感します。
共感
 子どもの気持ちに寄り添い、「それは嬉しかったね」や「ちょっと大変だったんだね」と共感を示します。子どもは、自分の感情が認められたと感じ、さらに話を深めやすくなります。
称賛
 その上で、子どもの努力や工夫を具体的に褒めます。たとえば、「その色の選び方、とても素敵だね!」といった表現で、どこが良かったのかを明確に伝えることで、子どもは自信を持ちます。
質問
 最後に、子どもの話をさらに引き出すための質問をします。ただ「次は何して遊ぶ?」と尋ねるのではなく、たとえば「今日、絵を描いているとき、どんな気持ちになったの?」や「そのアイディアはどうして思いついたの?」と、子どもが自分の内面を振り返りながら話せるような問いかけを工夫します。

例えば雛祭りの制作が飾られている場面で、拡張話法を使った会話をしたとしたらこんなかんじになるでしょうか。

保育者:すごいね!自分で作ったんだね!どうやってつくったの?
子ども:えっとね、ピンクの紙をペタペタ貼ったの。
保育者:こんなにたくさん貼ったんだね!たくさん貼るの大変だったんじゃない?
子ども:楽しかったよ~
保育者:そっかぁよかったねぇ。どうしてピンクを選んだの?

…と、よくある保育室での風景ですが、「拡張話法」が応用されています。

すこし解説を加えますと、
感嘆+称賛
 保育者:「すごいね!自分で作ったんだね!」
 → 子どもの努力と創造性を心から認め、驚きと喜びを表現しています。ここでは、保育者が子どもの成果に対して「本当にすごい」という感動を伝えることで、子どもの自信を引き出しています。
質問
 保育者:「どうやってつくったの?」
 → 子どもに具体的な製作プロセスを尋ねることで、子ども自身が体験を振り返り、詳しく話すきっかけを作っています。
反復+称賛
 保育者:「こんなにたくさん貼ったんだね!たくさん貼るの大変だったんじゃない?」
 → まず「こんなにたくさん貼ったんだね!」で、子どもの発言を受け止め再確認(反復)するとともに、努力を称賛しています。さらに、「たくさん貼るの大変だったんじゃない?」と問いかけ、子どもの体験や感情に触れようとしています。
共感
 保育者:「そっかぁよかったねぇ。」
 → 子どもの「楽しかったよ~」という返答に対して、保育者は共感を示し、子どもの喜びを素直に受け止めています。ここでは、子どもの感情がしっかり理解されていることを伝えています。
質問
 保育者:「どうしてピンクを選んだの?」
 → 子どもの選択の背景や意図を引き出すため、具体的な理由を尋ねています。これにより、子どもは自分の判断や気持ちを深く振り返るきっかけを得られます。

…いかがでしょうか。ちょっとした会話の中にも、拡張話法を用いることができます。

以上、拡張話法をつかった子どもとのコミュニケーション方法をご紹介しましたが、その根底には子ども一人ひとりの内面に寄り添い、自己表現を促すという目的があります。保育現場や子育ての現場でこの方法を応用することで、子どもたちは「自分は大切にされている」と感じ、安心して心の中を語れるようになります。保護者の皆さまにも、家庭での子育ての場面でぜひ取り入れていただき、子どもとの絆を深める一助としていただければ幸いです😊